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セクマイと労働

セクマイと労働

ゲイの人も普通に会社で働いている方が多いと思いますが、最近は同性間でも、セクハラやパワハラなどの意識が高まり、また、職場で「結婚しないの」とあからさまに聴いたりすることも、セクハラにあたるというのが一般的社会通念として確立されてきているように思います。

 

使用者には、職務遂行確保の利益と職場環境確保の利益がありますが、職務を遂行するうえでは、一般的に「ゲイ」であるということは公表する必要はありません。例えば、SM好きの人が、自己紹介で「SM好きです」といわないのと同じです。性的嗜好はセンシティブな問題ですから、職務遂行とは全く関係ないことがあります。ですから、反対にいえば、セクマイの人も職場において、カミングアウトする人は一部の人に限った方がよいし、必要がなければしなくても良いということです。昔、中日新聞で同性愛を告白した人が地方の通信部に飛ばされたなどという話しもあり、社説は革新的でもまだまだ内部は古臭いものです。

 

この点、本をみると、男女雇用機会均等法などが書かれていると思いますが、現実には男性の採用が多いのが普通です。採用に関しては三菱樹脂事件において、企業には採用する権利があるから、嫌いな人をわざわざ採用しなくても良いと解されています。ですから、めんどうくさいな、と思われると、就職戦線も不利でしょうし、こと職務遂行に限って言えば性的嗜好なんて関係ないのではないでしょうか。

 

たしかに採用後の職場環境において、トイレや更衣室の問題があります。しかしながら、ゲイの人の場合、背広で勤務するわけですから男子トイレを使用するのが普通でしょう。

女性的な格好をしている方などは人事部と相談し、トイレの使用先を決めるべきでしょうが、大企業は、いわゆる性別変更(MTF)をしていない限り、戸籍上の性別に従ったトイレの使用を求めるでしょう。他方、MFTをしている場合は、女子トイレの利用を認めることが普通なのではないでしょうか。

 

ただ、いずれにしても、使用者には職場環境確保の利益があります。したがって、かえって職場で性的嗜好を話し混乱を招くと使用者の不興を買うという観点も踏まえるべきです。

私は、取締役もして60人の事務所にいたこともありますが、気持ちはわかりますが、権利ばかり主張するとどんどん自分の立場は悪くなっていってしまいます。

 

問題は、究極的に解雇に結びつく場合です。例えば、営業であるのに、女装をしていたり、極端な格好を直さない場合は就業規則上の措置の対象になっても仕方がないでしょう。

なぜなら、会社の職務遂行確保の利益を侵害しているからです。会社は営利団体であって、自己表現の場ではありません。もっとも、解雇などの場合は、接客が必要ない部署の異動が検討できなかったかなどを考慮する必要があるので、社会通念上合理的理由を欠く場合もあり、解雇が無効とされる場合もあるかと思います。

 

しかし、こうした法律相談は若い方に多いのですが、30代にもなればマネジメント側に廻ります。そのとき、やはり女装をして営業にいかれたらそれは困ってしまいます。

したがって、あまり仕事場に、性的嗜好というのを持ち込むことはおすすめできません。繰り返すとおり、男女雇用機会均等法も、使用者の職務遂行確保の利益や職場環境維持の利益に支えられていますから、男女平等だから、セクマイも直ちに平等ということにはなりません。この点を勘違いしないようにする必要があるでしょう。

 

性同一性障害に対する配慮は必要です。これは法律で決められたことであり、性別の変更が公的に認められた人を差別することは安全配慮義務に反し許されません。

かえって、そういう人を差別する使用者の側に非難が向かうことになるでしょう。使用者は、性同一性障害の労働者に対する理解を高め、相応の配慮を行う義務があることを認め、懲戒解雇を無効とした判例もあります(東京地裁平成14年6月20日)。

 

また、福利厚生についての相談も受けますが、これは給与ではありません。ですから、会社が決めた規則に乗るように自分で工夫をしていくしかないと思います。

 

セクハラの問題もあります。いわゆる同性間のセクハラですが、数は極めて少ないと思いますが、この場合は、率直に上司に報告すべきです。使用者も職場環境維持の利益を持っているので、ホモセクハラと呼ばれる行為は容認できないことは当然のことであって、こうしたことは、男女間のセクハラと同じように考えられます。とかく申告しにくいという場合もあるかもしれませんが、その場合は、大企業であればセクハラ窓口など、小規模であれば部長職などに苦情を述べる、そういう雰囲気でなければ弁護士を伴って申し入れる、といったことが必要かもしれません。いずれにせよ、セクハラの防止は使用者の義務ですので、それを履行しない場合は会社側に問題があります。ただ、いきなり訴訟を起こしたりすることは、カミングアウトを伴いますし、弁護士や労組を通した交渉を積み重ねるのが最善のように思います。

 

名古屋高裁金沢支部平成8年10月30日は、その行為の態様、行為者の職務上の地位・年齢、被害者の年齢、それまでの両者の関係、当該行為の行われた場所、状況、当該行為の反復、継続性、被害者の対応等、諸般の事情を総合的考慮して、その言動が社会的見地から不相当とされ、違法と評価し得るほど重大・悪質である必要があるとしており、かなり、セクハラが不法行為とされる要件は厳しいことがわかりやすいかと思います。同性の場合、露骨に性器を触られたり肉体関係を迫られたり、同性愛者であることをばらされるといったようなことでない限り、名古屋高裁の規範では違法とはなりにくいかもしれません。

 

ですから、職場環境の改善は申入れと労組をうまく利用することがコツです。

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