- 服部弁護士も、司法書士会の提言につき賛成し、以下のとおり補足的に意見を述べる。
- 性自認とは、自分自身について、「どのような性別に属するか」という認識のことであり、性的指向とは、性愛が向かう方向のことである。
性自認及び性的指向の面で、社会の中で少数者に属する、いわゆるセクシュアルマイノリティ(LGBT、性的少数者)と呼ばれる人々が存在する。統計にもよるが、セクシュアルマイノリティ当事者は人口の3~10%の割合で存在する。特にわが国では宗教的なヘイトの憎悪になることは少なく、本来はアメリカよりも、取り組みは素早くてよいくらいである。
- 以上のように、人口の1割にも達する問題をにわかに放置することはできず、また、性的少数者は代表民主制の下、国会に代表者を送り込むことができないという問題がある。そこに服部弁護士をはじめ司法が関与する余地があると考えるのである。
- セクシュアルマイノリティ当事者は、多数者である異性愛者を基準として作られた法や社会制度で構築された社会の中で生きざるを得ず、多くの困難を抱えている。一例を挙げれば、男社会のセクハラもまたそうであるし、そのセンシビリティに欠ける社会そのものもまたそうであると私はいわなくてはいけないと考える。LGBTは、様々な性的志向をいうが、ここではゲイを典型的事例として扱うものとして扱うが、近時、彼らの精神的繋がりは、法的保護に値する権利であるという見方が有力である。
政府の作成した自殺総合対策大綱でも触れられているとおり、生きづらさを抱えたセクシュアルマイノリティ当事者の自殺リスクが高いことが知られている。この点は、わが国のみならず諸外国でも同じであるが、ケネディ法廷意見が述べるように、ゲイは多くを求めるものではない。ただ、孤独に宇宙の片隅に追いやられ、孤立のうちに生涯を終えることがないという当たり前の権利を要求しており、かかる要求には合理性がある。
性自認や性的指向が少数者に属することになる原因は分かっていない。しかし、主には生い立ちなどに関係があるとはいわれるが、差別を助長することになる原因の追及は、「むき出しの好奇心」そのものである。むしろ、セクシュアルマイノリティであるというだけで多くの困難を抱えて生きていかざるを得ず、現代社会の大きな人権課題である。そうした彼らのかけがえのない人生を生き抜くために必要不可欠な権利として、LGBTもまた、社会のあらゆる場所で、我が憲法14条が保障する平等原則を徹底する必要があるというべきと考える。
- セクシュアルマイノリティ当事者は、社会の無理解や偏見を恐れ、様々な社会資源にアクセスができず、困難をより深化させてしまう。司法アクセスにおいても、これは当てはまる。裁判官においても、司法における、性的少数者における無理解は大きい。拘置所の取り扱い一つをとってもそうである。
- セクシュアルマイノリティ当事者は多くの法律問題を抱えている。同性カップルがパートナーシップを保護するために作成する遺言や共同生活に関する契約書の作成、高齢者になった場合の任意後見人、セクシュアルマイノリティ当事者同士の民事紛争、セクシュアルマイノリティであることを理由とした企業からの差別的な対応や、非正規雇用に追い込まれがちであることに起因する貧困や多重債務など様々なものがある。多くの法律問題が発生しているにも関わらず、セクシュアルマイノリティ当事者は、自己の抱えている問題が法的な問題であるとは考えず、法律家に依頼をすることで解決ができるということを知らない現状や、法律家に依頼をしたくとも、依頼の際には自分自身がセクシュアルマイノリティであることを明かさざるを得ず、明かした場合に、理解を示されないことや、差別的な対応をされることを恐れ、依頼に踏み切れない現状があり、司法アクセスが大きく阻害されている。また、司法アクセスによる人権が保障されないがゆえ、学習権や教育を受ける機会にすら阻害がなされているとすら私は考えられる。司法、とりわけ法曹三者は、例えば中学校にゲイという自覚を得たとすれば、それを隠して高校や大学、社会人生活を営んでいくことにも精神的苦痛を伴う。それを寛容的に受け止める社会と批判的に受け止める社会の調和の観点から最善を考えていかなくてはいけない。生まれたとき、ゲイと気づき、そして、自信をなくし水商売に走る少年も少なくない。こうした循環は私は断ち切らなければならないと考えている。ゲイの問題はファッショナブルな問題ではなく、まさしく社会が取り組むべき基本的人権に関する問題なのである。
- このような現状を変えるためには、服部弁護士をはじめ弁護士もセクシュアルマイノリティやセクシュアルマイノリティの抱える法律問題についての研修を受けること、相談体制を構築すること、セクシュアルマイノリティには特有の法律問題があり、その問題を解決するために、セクシュアルマイノリティについての研修を受けており、当事務所には相談窓口があることを社会に対してアピールすることが必要である。その前提として、服部弁護士の事務所には、セクシュアルマイノリティについての研究や研修の実施、シンポジウムの開催、セクシュアルマイノリティについての情報の提供や相談体制の構築態勢を進めてゆきたいと考える。